町をみつめ、町にみられて[インタビュー:菓子舗うつみ]

道路に面したショーウィンドウ。外からお店の中の様子がよく見えるということは、中からも町の様子がいつも伺えるということ。菓子舗うつみで15年、お店に立ち続ける菅原貴子さんはそう言って今日も町を見つめています。

 


大体お客さんの顔を見れば分かるから

菓子舗うつみが八日町に支店を構えたのは1998年のこと。その5年後、お店の顔として菅原さんに白羽の矢が立ったのは、彼女自身が気仙沼出身というのも理由のひとつです。

「八日町での思い出はここに勤めてから。初めは近くの人の顔や名前だけ知ってたんだけど、ここにいれば色んな人のことがだいたい見えるからね。」

向かいの『なりさわ酒店』さんのこと、通りかかった同級生のこと、ウィンドウ越しに見える『横田屋』さんのこと…菅原さんが八日町にやってきたとき、産まれた赤ん坊が高校生になるくらいの期間、町や町の人々の変化と成長を眺めてきました。

「ここはちょうど信号になってるから、車が赤信号で止まった時に乗ってる人がちょっと窓開けて『あるすかー?』って聞いてくるの。だから『あるよー!』って返すと、信号待ちの間に買ってったり」

『あるすかー?』ってなにがあるんですか?と聞くと「人それぞれの好きなもの。大体お客さんの顔を見ればわかるから」言葉のいらない余白だけのコミュニケーション、小さな町ならではの光景かもしれません。

 


震災を越えて

震災直後は店舗内の片付け、そして再開に向ける準備に追われる月日でした。その後、9月より復興を勢いづけるために菓子舗うつみが取り組んだのが『震災復興最中(もなか)』“最中(さいちゅう)”と“最中(もなか)”をかけた、菓子舗うつみオリジナルの和菓子です。

「八日町店を開ける前は、本店での発送を担当して毎日クタクタだったねえ」

再開直後はどうやって再び八日町店を、ひいては町を盛り上げていこうかと考える日々。

「でも始まったらあとはひとりで。自分でやるっきゃないか、って今現在こんな感じなのよ。」

お話を聞かせてもらったのは年の瀬、クリスマスのシーズンだったので店内には季節を感じられう様々な装飾がなされていました。お店に来る人だけでなく、町の風景の一員として彩りを追加する。菅原さんの小さなこだわりです。

 


だからなるべく前を見て

通りがかる人たちとの思い出話を語ってくれながら、「なんでも見えるのよ」と笑う菅原さんの姿はとても楽しそうです。

「通りに背中を向けて手仕事とか事務作業なんかしてると、『あんたいつも後ろ向いてなにやってんのー』なんて言われるから、なるべく前見てお客さんゲットしないとと思ってるの(笑)」

町の人と目を合わせて、「あっ」「どうもね〜」なんて吸い寄せるの、念じるの、と菅原さんはイタズラっ子のような笑顔も見せてくれました。町をいつも見て、町にいつも見られて。“お店の人”と“お客さん”を越えた人と人とのつながりが、長い時間をかけて八日町と菅原さんに紡がれているようです。

「まだ頑張ってちょうだいって言ってくれる町の人もいるからね」

 

(文・猫田耳子)


 

商店名 (有)菓子舗うつみ
業種 和菓子・パン・洋菓子
代表 内海哲郎さん
話し手 菅原貴子さん
創業年 1963年(八日町店は1998年オープン)
営業時間 10:00-17:15(日曜定休)
住所 八日町2-2-9
電話番号 0226-22-8720
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