[インタビュー]ムラデン家具

「シビアな方」
ムラデン家具の店主、村上健一さんの第一印象はそんな感じでした。
一見怖そうなのに、はじめてお会いしたときから「このひとのこと、好きだなあ」と思えたのは、村上さんの中に静かに流れる、深い愛情を既に感じていたからかもしれません。


 

良い時代を過ごした

ムラデン家具の創業は戦後にあたる1950年。村上さんのお父さんが満州鉄道の物資到達部に配属され、商売に目覚めたことがきっかけで始まります。
創業当時、村上さんは2歳。物心つく頃に見た気仙沼の風景はとにかく景気が良く、ムラデン家具の事業も中小企業庁(当時)から長官賞をもらうほど(!)だったそうです。

「 大船渡線 ってあるでしょ?一列者を貸し切って産地から家具を運んだほどっさ。」

その時代の八日町については「やっぱり気仙沼の中心」と町の人は声を揃えて言います。魚町、南町と合わせて内湾が気仙沼の中心で、特にムラデン家具にとってはそんな景気の良かった気仙沼地域が問屋さんやメーカーに「気仙沼は家具でもうんと良いものを買う」と評判だったとか。

「今でも昔の流れで、良いものを大事に買うんじゃないかなあ。昔ほどではないにしても。そういう地域性がここにはあると思うのよ。なんで?…うーん、やっぱり漁師の、海の男の心意気が残ってんじゃない?(笑)」

真実は誰の心の元にもわかりませんが、村上さんはそう語ってくれました。


やってるうちに楽しくなった家具修理

ムラデン家具では物販だけではなく、家具の修理も受け付けています。修理をするのは村上さん本人!(と従業員さん)
数が多くなりすぎて途中から撮ることをやめた、と言う修理前→後の アルバムの一部 を見せてもらいました。

時代の流れと共に、家具の修理ができる職人さんの数も少しずつ減ってきており、量販店では修理を受け付けてもメーカーに戻すことがほとんど。こうして小売で受け付けているのは数少ないそうです。

「誰に習ったわけでもなく、やってるうちに楽しくなってきたね。分解して直して、好きだからこういうの。だって勿体ないでしょ?なによりも。こういう形があるのにさ、廃棄してしまうのは。」

大学卒業後22歳で店に入り、46年。御年68歳。本当は商売よりもそういった職人業の方が好きで、時間があれば絵を描いたり、書もしたいと村上さんは笑いました。


“町づくり”

村上さんの第一印象がやや厳しめに感じられたのは、 ホームページ制作ワークショップ でいつも投げかけてくれた現実的な問いが要因でした。

「それはちゃんと続けていけるのか」

「そこに覚悟と意思はあるのか」

ただ厳しい言葉を吐くだけではなく、こちらの意見をしっかり受け止めてくれた上でシビアな局面について触れるのは、御自身が若い頃から“町づくり”に関わっているからこそだとイ
ンタビューを通じて知りました。

30歳前後には、『水産都市気仙沼を見直そう』をテーマに同年代の役場の人たちや、いろいろな関心を持つ市民のみなさんと一緒に様々なシンポジウムや勉強会に参加していたとのこと。

「八日町に帰ってきてすぐに青年会議所に所属して。色々やってるうちに、やっぱ町のこと考えなくちゃってなったんじゃないかな。当時としては“町づくり”で若者が集まるなんて中々なかったと思うよ。嫌がられたんだあの頃は、『若い連中が余計なことをするなって』(笑)」

自身がそういう時期を経たからこそ、いま動き出そうとしている若い活動に向ける視線はシビアでありながら、見守るような愛情を感じるのかもしれません。

「ホームページ制作委員会は案内もらったから行っただけだよ(笑)協力できるものは協力したいって思いだけでね。もうこの年になってくるとリタイアしても良いんだろうけど。」


簡単にはいかないこれからの“商店街”

ホームページ制作を土台にして考える、これからの八日町商店街について。正解はどこにあるのか、そもそも問題がどこにあるのかも分からないものなのかもしれません。

「ほんとにねえ、これから地方都市で小さな商店が成り立っていくのかなあって。商店が半分お茶のみしながら、御用聞きしながらってそういうだけの時代じゃなくなってしまったんじゃないのかな。言うもの、お客さんみんな。商店には盛り上がってもらいたいけど、一軒一軒でこう並んでると、入ったらなにか買わずに出たらいけないって罪悪感があるって。だから商店街づくりってそういうのを考えなきゃ嘘だと思う。」

村上さんの考えは、個店を区割りするのではなく、来るお客さんにとってのいわゆる大型量販店とは特色の違う“一つ”をみんなで作りだすべき、というもの。
それぞれのひとが気楽に見て回れる、市場のような商店街。気仙沼には既に水産物で一体となっている場所はありますが、そこに農産物が入り込んだり、雑貨が入り込んだり、とにかく色々なものが混ざり合ってこその“町づくり”だと考えます。

「考えてるっていっても、もう勝手なこと言ってるだけだけどね(笑)みんな考えてると思うよ。考えてるんだけど、結局はそれぞれの事情があるだろうし、今回みたいに津波でぺろーんとやられちゃったっていうのもあるしね。町をどうまとめていきましょうかっていっても、一筋縄ではいかないでしょ。」

「ほんとだったら、言葉は悪いけど、町づくりのためには千載一遇のチャンスだったと思うんだよね。今回の被害の件は。でも、そういうふうに簡単にはいかないんだよなあ、みんな。やっぱりそれぞれ歴史があり、自分が大事だからね。」

興すことはできても、続けていくことが容易にはいかない“町づくり”という課題。

「個人の心の枠と、法律の枠と、いろんなものが絡まってるから簡単にはいかない。町づくりやりましょうってなると。自身も今は健康が一番と思うから面倒くさいし、もう先もないし、そんな大きいこともできないから、自分の仕事の範囲でできることをやりましょうって。半分ボランティアで津波でどろどろになった家の中で、どろどろの家具を洗って治してみたり。そんな手間するんだったら新しいやつもってきて売るほうが早いんだほんとはね(笑)でも昔の歴史がそこでなくなってしまうとやっぱりね。残したいと思ってやってるんだけど。」

 

(文・猫田耳子)


商店名 ムラデン家具
業種 家具
店主 村上健一さん
創業年 1950年
営業時間 9:30-17:00(水曜定休)
住所 八日町2-3-13
電話番号 0226-22-1230
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