[インタビュー]亀屋商店

気仙沼駅から内湾へ向かうとき、八日町で最初の店となるのが亀屋商店。記載は“亀屋”ですが、地元の方からは親しみをこめて“かめこや”と呼ばれています。

その由来は八日町から少し離れた場所に登り窯を持っていたご先祖様が、瓶(かめ)を焼いて売り始めたことから。主人の渡邊栄さんも、お店同様に“かめこやさん”と呼ばれています。(以下、わたしも亀屋さんと記載します。)

 


「商売は今でも慣れないです」

気仙沼といえば海の町。亀屋さんも元々は海の男で、船に乗り込んで世界中を渡っていました。八日町にやってきたのは26歳のとき、亀屋商店にお婿入りしたことを機に、お店に立ち始めます。

「当時は町がすんごい賑やかで、とにかくお店も忙しくて。一番大変だったのはねえ、やっぱり接客ですかね。船乗りって話し方なんかもね、相手に気に障るような話し方もあったでしょうし。焼き物一つわかんなかったから、一個ずつ覚えるにも数が多いから大変ですよね。」

世界中を股にかけていた船乗りさんが、一つのお店にずっといることに戸惑いはなかったのですか?と聞いてみると

「まあ抵抗はあったんですけど、亀屋に子どもは独りだったんで。わたしもたまたま次男坊なんで、それでやった結果が今に至る。」

「商売はまあ、今でも慣れないです(笑)慣れ始めるのにも10年はかかったでしょうねえ。暇な時が大変なんですよ。いくら忙しくてもいいんですけど、暇になるとああでもないこうでもないって考えるし。俺の仕入れが悪いのかなって。」

自分がなにを生業にしていくのか、今はある程度選ぶことができますが、当時はなかなかそうもいえない時代。亀屋さんにとって全くはじめての商売では、接客はもちろん仕入れも一から産地まわりをして学びました。有田、常滑、瀬戸、会津…当時の主人についてまわって、ひとつひとつ色々なことを教えてもらったそうです。

 


商売を学んでいるうちに見つけた自分の「好き」

お茶碗やお皿、マグカップなど多用なものであふれる亀屋商店内で、ひときわ異彩を放っているのが、まるで博物館の展示のような一角。

「ディスプレイで最初置いてたんですけど、買ってく人がいるんで、倉庫さ置いてたやつちょろちょろ出してたら『ああ、いいな』って誰かに好かれて。それから慌てて古物商の免許とって。」

「昔からの古いものが好きなんです。江戸とか。学んでいるうちに、こういうものが好きだなって。わたしの趣味で変わったものばかり置いてっから、そういうお客さんも遠くからわざわざ来るんですよ。」

普段お店には並べていない、亀屋さんのお気に入りをいくつか見せてもらいました。ひとつひとつ、その器が何時代のどういう名前の柄で、手描きとそうでないものの違いはどういうところにあるのか、と教えてもらえるのは複数の産地のものを扱う商店ならではの特権ですね。

 


つい寄ってしまう町の休憩所

商品が並ぶ店舗の隣には、事務所でありながら町のひとがちょっと寄れるスペースがあります。今回のインタビュー時は、親戚のチビちゃんたちがまるで我が家のようにくつろぎ、その横では八日町で様々な活動を行う吉川くん(スタジオまめちょうだい)が仕事をしていました。

「うちは昔からこうやって誰かコーヒー飲みに寄ってくる人多いんですよ。遠くから来たお客さんにお茶やお菓子食べてもらってゆっくりしてもらって。それの名残で。だから今でも人は寄ってくるんですよね。」

「楽しいですね。色んな話が聞けるし。土曜日になるとね、みんな家族サービスあるから『誰もこないなー』って寂しいですね。それが商売に結びつけば良いんでしょうけど笑」

器だけでなく煙草も売っているため、2、3日に一度煙草を買いに来てはお茶を飲んで世間話をしていく町の人もいるとか。亀屋さんは“昔の名残”と語りますが、いつ行ってもあたたかく受け入れてくれる亀屋さんの人柄に、つい人は寄ってしまうような気がします。

 


八日町が続いていけば

八日町商店街に限らず、日本各地の商店が抱える後継者問題。亀屋商店も今のところ、亀屋さんで最後。聞きづらいことではありますが、今後を考える上で避けられない問題を尋ねると、長い沈黙のあとぽつぽつとお話してくれました。

「まあねえ…子どもたちも自分の好きなようにやれば良いんじゃないですか。亡くなったお母さんもそう言ってね。継がせることなんかないって。」

「ご先祖さんには申し訳ないけど、時代じゃないと思うんですよね。」

仕入れたものをそのまま売る商店は、大きなチェーン店には品揃えや価格面で敵わない。そういうものは安く手に入るところで買ってもらえれば良くて、高いけれど良いものを置いて、ぽつぽつ売れていくようなやり方で良いと亀屋さんは言います。その先で数十年後、亀屋商店がなくなって全く別の店になったとしても構わないと最後に加えてくれました。

「八日町が続いていけば。」

「そうすっといつかまた100年後の八日町、気仙沼で『ここに亀屋商店ってのがあったんだねえ』って、『あそこにわけわかんない古いもの好きな親父がいてねえ』ってみたいなね(笑)」

 

(文・猫田耳子)

 

商店名 亀屋商店
業種 陶・漆器、金物
店主 渡邊栄さん
創業年 1904年
営業時間 8:30-18:30(日曜定休)
住所 八日町2-1-7
電話番号 0226-22-1178
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