[インタビュー]鈴木金物店

初めてお会いしたときの服装は黒いTシャツに派手なハーフパンツ、やんちゃ少年がそのまま大人になったような出で立ち。一見豪快なようで、会議やワークショップの場では一歩引いたところから発言し、思わずその言葉に聞き入ってしまう…八日町で出会った人の中でも、一二を争うインパクトを持っていたのが鈴木敦雄さんです。

敦雄さんが代表を務める鈴木金物店の仮設オフィスに足を踏み入れると、そのインパクトは更に倍増。所狭しと並べられた…いや、詰め込まれたという表現の方が正しいかもしれないビンテージのオーディオや部品や金物、そして模型飛行機たち。それは辞書に“大人のおもちゃ箱”という項目があったら、参考としてこの部屋の画像が差し込まれているかもしれないと思うほど。(その半分以上は商売道具ですよ!)

「小さい頃はこの辺に遊び場がいっぱいあった。裏の山だったり家の軒先だったり路地裏だったり、、、学校では模型飛行機を飛ばしたり、色んなところが遊び場だったね。」

 


好きでやってるだけだよ

様々な場所を“遊び場”として楽しみ尽くす術を知っている敦雄さん。わたしが気仙沼を訪問する度に、美味しいご飯に連れて行ってくれたり、気仙沼のおもしろスポットを教えてくれたり、本当に良くしてくれました。町内でも頼れる兄貴分として、様々な場所で名前を聞くことが多いのですが、敦雄さんのそのモチベーションは一体どこから来ているのでしょうか。

「モチベーションなんてないよ。好きでやってるだけだよ。」

敦雄さんがこれまで商店街活性化のためにやってきたことは本当に様々。お祭りを盛り上げるために、うなぎ釣り大会や鯉の掴み取り大会などを企画・手配・運営したり、八日町に第三セクターを作ることに尽力したり。その全てが成功したというわけではありませんが、やらない後悔よりは何度でもやってみることを選ぶと敦雄さんは言います。

「そういうことが好きだし、やんないよりやった方がいいなって。たぶん、今その当時に戻っても同じことやるんだろうな。」

 


震災で全部なくなってるから

八日町は気仙沼の中では比較的、震災被害の少ない地域ではありますが、鈴木金物店は店舗・倉庫・自宅の全てが波に攫われ、その被害の甚大さは扱っている商品の特性にも関与しています。

「ビンテージのパーツや真空管なんかは、例えば50年前のオーディオ製品を直すために、50年前の当時のオリジナルパーツやもっと昔の真空管等をアメリカやヨーロッパ等から探して仕入れる。そうやって集めた物が殆ど流されちゃった。これからまた集めようって探しても無理、もう無いの。」

物を売り買いする仕組みが変わり、ただでさえ苦難を強いられている地方の商店街。時代になんとか抗おうと奮起していた八日町商店街に立ち現れた波は、より一層未来を厳しいものへと挿げ替えていきました。

「諦めなくちゃならない事がどんどん出てくる。だから、どの辺で折り合いをつけるかいつも悩んでる。元には戻れないから。」

八日町でのインタビューを重ねながら、何度も“見えない爪痕”という言葉が頭の中に浮かびました。大きく失われたものがあると同時に、小さくて見えづらい、だからこそ二度と取り戻せないものがそこには隠れています。

「若い人も色々悩んでるだろうけど心配しないで。どれだけ大人になっても悩みはあるんだから。大人になって悩まなくなるのは恋愛ごとくらいかな(笑)」

思わず黙り込んでしまった私のことを励ましてくれるかのように、敦雄さんはそう言って笑ってくれました。

 


本当のスタート

敦雄さんがこよなく愛する模型飛行機

日本のあらゆる地方で起きている課題の上に、更に津波が残した見えない爪痕が八日町には残っています。まだまだ「未来を考えられる状況じゃない」という方がたくさんいて、今日明日を切り抜けるのに精一杯の現状で、“答え”があるとしたらそれはどこにあるのでしょう。ただ終わりを待つだけなのだろうか…敦雄さんと話を続けながら、そんなことを悶々と考えました。

「例えば、自分の子どもが“今自分がしている商売を継承する”って枠を外しちゃって、“この商店街で商売をしたい”って思う若い人が出てくるような商店街にしていくのも一つの方法だと思う。もし何年か何十年か後、自分が商売できなくなったときに『じゃここ貸してください。ここでわたし商売したいです』って人が出て、新しいお店が出来て、従来の老舗と共存する商店街、そんな商店街を目指すべきなのかなって。」

それでも八日町が八日町としてあり続けるための活路を、敦雄さんは決意のように最後に少しだけ言葉にしてくれました。

「この町は商店街なんだ。そういう町として存在し続けていくために、常に賑わいとワクワク感を提供し続ける。そんな商店街をみんなで目指して行くことも一つの町づくりの形かもしれないね。」

「でも今は厳しいね。長期で考えれば考える程どんよりしてくるね(笑)そういうことをみんな薄々感じながらも、例えばお日市まつりのイベントの様に、常に前向きに活動しているところが八日町のいいところだなって思うね。まだまだやれる事はいっぱいある、今年もやるよ!」

 

(文・猫田耳子)


商店名 鈴木金物店
業種 金物卸小売業・オーディオ販売など
店主 鈴木敦雄さん
創業年 1907年
電話番号 090-1602-2836(携帯)

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